アメリカのビンテージ婦人雑誌『Workbasket』に、お小遣い稼ぎや活動資金集めを支援する広告がたくさん載っていることを以前書きました。
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ビンテージ婦人雑誌の「稼ごう」広告(前編)
2023/3/18
アメリカで1935~1996年に出版されていた『The Workbasket』という雑誌があります。内容としては編み物などの手芸がメインなのですが、料理やガーデニングの記事もあるので、「手芸寄りの婦人 ...
今回はそんな広告の一種、「オリジナルレシピ本を作って稼ごう」という広告の話です。
Workbasketに載っていた広告
実際の広告は著作権の都合で載せられないので、架空の広告画像を作ってみました。
実際には5x7cmほど。小さくて飾り気のない広告です。
1970~90年代の『Workbasket』誌には、こんな広告が毎号のように、ときには複数掲載されています。
メンバーから集めたレシピ集をバザーで売る。
そういうことをしている団体やサークルは日本にもあるかもしれません。
でも、アメリカでは雑誌にこんな広告が頻繁に掲載される状況だったのです!
ちょっと面白そうではないですか?
「コミュニティクックブック」という
調べてみたところ、こういうレシピ集は「コミュニティクックブック」として根付いていることが分かりました。
学校、職場、サークル、教会、郷土会など、さまざまなコミュニティがメンバーからレシピを集めて作るレシピ本の総称です。
制作したコミュニティの種類によって、教会ならchurch cookbook、郷土会ならregional cookbookなどと呼ばれることもあります。
コミュニティクックブックについて調べていると、「レシピ交換(recipe swapping)」という言葉をよく目にします。
日本でも友人同士でレシピを教え合う程度ならごく普通ですが、アメリカでは「レシピ交換会(recipe swapping party)」というものまで開催されるそうなので、日本より文化的に確立されているのではないかと思います。
レシピを教え合うという本来の目的のほか、メンバー同士の交流促進や、郷土料理の文化的保存という役割も担っているそうです。
もともとは、コミュニティ内のレシピ交換形態の一つとしてクックブック作りが行われていたようです。
レシピを手書きもしくはタイプし、自分たちで人数分印刷して綴じる、という素朴な姿が基本形です。
資金集めの手段として流行
ところが20世紀半ばになると、どういうわけかクックブック販売がコミュニティの活動資金集めの手段として流行します。
これが自然に起きた流行なのか、誰かが仕掛けたのかは、調べても分かりませんでした。
ただ、よくクックブック販売をしていたのは教会だったようです。
売るならば見栄えをよくしたいと思うもの。
そうすると、先ほどの広告のようなクックブック制作会社に依頼することになります。
できあがるクックブックは、こんな姿をしています。
らせん状のワイヤーや櫛形のプラスチックで綴じる形式が一般的だったようです。
表紙には、そのコミュニティを象徴する写真のほか、絵心のあるメンバーによるイラストや、子どもが描いた絵が使われることもあったそうです。
素人が書いたレシピとはいえ、各自が自慢の一品を披露しているし、めずらしい郷土料理が載っていたりもするので、料理本としてなかなか魅力的な存在だったようです。
現代のコミュニティクックブック
現在は、以前ほどコミュニティクックブックが作られなくなりました。
その理由は、インターネットが普及してレシピが簡単に手に入るようになり、クックブックの需要が減少したからだといわれています。
今でもコミュニティクックブックが作られることはありますが、目的は資金集めではなく、メンバー間の交流へとシフトしているようです。
偶然にも先日、知人が勤める米国系グローバル企業で配られたというクックブックを見せてもらいました。
社員からレシピを募集して製本したものが全社員に配布されたのだそうです。
まさに、現代のコミュニティクックブックですよね!
各レシピには、そのレシピ提供者の名前、国、所属部署、自己紹介が掲載されていました。
クックブックをきっかけに、国境や部署をまたいで「あなたのレシピで作ってみたよ!」といったコミュニケーションが交わされているそうです。
ビンテージ本としての魅力
当時のコミュニティクックブックは、日本からでもeBayやETSYなどで買えます。
一定の人気を博しているようで、条件の良いeBay出品には入札が集まります。
eBayやETSYで買う場合の価格は、ビンテージのフード雑誌と同じくらいに感じます。
アメリカへ行く機会があれば、個人宅で開催されている不要品セールが狙い目だそうですよ。50セントくらいで買えたりすると、上の動画の方がおっしゃっています。
ちなみに、コミュニティクックブックは一般的に写真が載っておらず、文字だけのレシピです。
タイプライター文字や手書き文字なのでレトロ感はあるのですが、ビンテージ特有のエモい料理写真はまず載っていません。
見た目ではなく、レシピを楽しむのがおすすめです。
個人的には、料理写真が載っていないことは、魅力でもあると思います。
ネット上のレシピで料理工程の動画まで見られる便利なこの時代、文字だけの異国のレシピで料理するのは、もはや謎解きのよう。
一体どんなものができるのか!? と、なかなか楽しいです。
お読みいただき、ありがとうございました!
お読みいただき、ありがとうございました!
「自分たちのレシピを売ろう」という発想に国民性を感じてしまいます。
日本人だったら、「わたしたち素人のレシピなんて、よそ様からお金をとるなんて!」と、なりそうな気がしませんか?