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ビンテージ婦人雑誌の「稼ごう」広告(前編)

アメリカで1935~1996年に出版されていた『The Workbasket』という雑誌があります。
内容としては編み物などの手芸がメインなのですが、料理やガーデニングの記事もあるので、「手芸寄りの婦人雑誌」といったところでしょうか。

この雑誌の大きな魅力が、広告です。
手芸関係の広告だけでなく、生活感あふれる生々しい広告が山ほど掲載されています。

その中でも目を引くのが、「make money」や「earn money」という見出しの広告たち。
あなたも簡単にお金を稼げますよ、という広告がとても多いのです。

なかなか面白いので、1940~1990年代の号を拾い読みして、この「稼ごう」広告の内容と変遷を調べてみました。
今回は長くなりましたので、まずは前編です。

趣味と実益を目指す『The Workbasket』

1948~1990年の『The Workbasket』

『The Workbasket』はもともと、「楽しみながら稼ぐこと」を標榜していたようです。
1935年の創刊号から、表紙に「Home and Needlecraft for Pleasure and Profit」というキャッチフレーズを掲げています。
途中からこのフレーズは表紙から姿を消しますが、1964年までは目次ページに残っていました。

そして、いかにもこの雑誌らしいのが、1950年頃から始まった連載コーナーです。
その名も「Women Who Make Cents(こつこつ稼ぐ女性たち)」。
「手作りの○○をバザーで売り、○ドルの利益が出ました」といったエピソードがずらりと並びます。
後年になってコーナー名が「Making Cents(こつこつ稼ぐ)」に変わりますが(ウーマンリブの影響?)、コーナー自体は1988年12月号まで続いていました。

そんな雑誌なので、「稼ごう」広告の受け皿になったのだと思います。

「稼ごう」広告はどんなものだったか

実際の「稼ごう」広告は、こんな感じです。
モノクロページですが、ピンクとオレンジの部分は私が色を付けました。

「稼ごう」広告の大きさ

小さいけれど堂々と掲載される「稼ごう」広告

「稼ごう」広告は、小さなスペースに文字多めで掲載されていることが多いです。
上の写真では、ピンクとオレンジの部分に、それぞれ別の広告が掲載されています。

スペースこそ小さいですが、ところかまわず掲載されています。
雑誌の最後のほうにひっそりと恥ずかしげに…なんてことはありません。

なお、大手企業の「稼ごう」広告はページの4分の3くらいを占めていることもあり、イラストや写真も使われます。

「稼ごう」広告でよく使われるフレーズ

いかにも「稼ごう」広告らしいフレーズがいくつかありますので、ご紹介します。

make money(お金を稼ごう)

ストレートに「お金を稼ごう」と呼びかける広告が多いです。

makeの代わりにearnやgetだったりもします。
また、単にmoneyではなくextra money(余分なお金)だったり、具体的な金額が書かれていることもあります。

at home(自宅で)

in your kitchen(自宅のキッチンで)というパターンもあり。
働きに出なくても在宅で稼げますよ、という広告が多いです。

raise money(お金を集めよう)

moneyではなくfund(資金)のこともあります。

これは個人ではなく組織向けの表現です。
「バザーで売って活動資金を作りませんか?」といった広告文でよく見られます。
こういう場合のメインターゲットは教会だったようです。

no~(~なし)

  • no experience necessary(必要経験なし)
  • no risk(リスクなし)
  • no obligation(ノルマなし)

…など。
気軽に誰でも始められますよ、とアピールされていることが多いです。

何をして稼ぐのか

具体的に何をして稼ごうと呼びかけているのでしょうか。
大きく分けると、3種類あるようです。

それとは別にもう1種類、広い意味では「稼ごう」広告と言えそうなものがありますので、それも紹介します。

種類① ― 商品を売ってマージンを稼ぐ

最も多いのが、このタイプ。
何かを販売したり、宣伝して注文を集めることで、商品1個につきいくら、というマージンをもらえます。
一種の代理店業ですね。

多くの場合、仕入れてから売る方式ではなかったようです。
最初にサンプルが無料で提供され、それを宣伝して注文を集めるか。
もしくは最初に商品セットが少しだけ無料で提供され、売るとマージンが得られるか。
そんな仕組みだったので、初期投資が不要で、売れ残りの心配もなかったようです。

広告文は、こんな感じです。
複数の広告を参考に、それらしく書いてみました。

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Amazon Primeのドラマ『マーベラス・ミセス・メイゼル』シーズン4に、まさにこんなパーティをしているシーンが出てきます。

主人公は、お金に困っているシングルマザー。
自宅の応接間に友人7人ほどが集まり、なごやかにテーブルを囲んでいます。
テーブルの上には、タッパーウェアのような食品保存容器が何種類もてんこ盛りです。
主人公は「プラスチックは魔法の素材よ」「形やサイズ、色が豊富で、全部そろえたくなるはず」と力説。
最後に注文を集めていました。

かなりデフォルメされたシーンだとは思いますが、当時を想像できて面白いです。
シーズン4のエピソード3、開始後7分あたりです。

種類② ― 作ったものを売って稼ぐ

マットを織って売る、アクセサリーを組み立てて売る、など。
手芸愛好家らしい稼ぎ方ですよね。

広告元は、道具や資材のサプライヤーが多いです。
織り機のメーカーや、アクセサリーパーツの代理店など。

たとえば、こんな広告です。

手織りで稼ごう

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種類③ ― 専門スキルを身につけて稼ぐ

割合としては少ないですが、こういう広告もあります。
准看護婦のほか、経理係や会計士を養成するスクールや、破れた布を補修する「かけはぎ」職人養成の広告などもありました。

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番外 ― 卸売価格で買う

「稼ごう」という言葉はないものの、見出しに大きく「wholesale(卸売り)」と書いてある広告があります。
布などの手芸資材を大量購入する人に、通常価格よりも安い卸売価格で販売しますよ、という広告です。

卸売価格で買ったものを周囲の人に通常価格で売れば儲けが出るわけで。
稼ぎたい人たちはきっと、こういう広告にも注目していたのだろうと思います。

各年代の「稼ごう」広告

年代によって、「稼ごう」広告の内容や掲載数に違いがありました。
後編に続きます!

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ビンテージ婦人雑誌の「稼ごう」広告(後編)

2023/3/18

前編からの続きです。まだお読みでない方は、ぜひこちらからどうぞ。 後編では、1940~1990年代の『The Workbasket』を何冊か選び、掲載されている「稼ごう」広告の数と内容を調べました。年 ...


ふるよき

お読みいただき、ありがとうございました!

各年代の『The Workbasket』を数冊ピックアップし、掲載されている「稼ごう」広告をすべて洗い出してみました。
後編では、そのリストをご紹介したいと思います。
(興味を持ってくださる方がいらっしゃることを願います!)

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